今日起きたこと

 

 今日、いわゆる「露出狂」に遭遇した。電車の中のことだった。

 

 その電車は向かい合わせの座席で、男性は私の目の前に座っていた。どちらが先に座っていたのかははっきりと覚えていない。私の隣には友人が座っていたが、車内は人もまばらで、静かだった。

  どこにでもいそうな40代くらいの男性だった。最初は、何度か目が合うなという程度の認識だった。席も向かい合わせだし、しょうがないよなと特に深く考えていなかった。

 しばらくしてふと、男性のズボンのチャックが開いていることに気が付いた。

 

(チャック、閉め忘れちゃったのかな……)

 

 その時は軽くそう考え、なるべく見ないようにしてあげていた。

 

 違和感を覚えたのは、それから何駅か通り過ぎた頃だった。開いたチャックのすき間から、肌色の何かが見えている。直感的にアレだ、と気が付いた。そして故意に見えるようにしていることも即座に理解した。少し戸惑ったが、万が一見間違いだったら困るし、ことを荒立てるのも面倒だったので、視界に入らないようにして友人と喋ったり携帯を見たりしてやりすごしていた。

 そうしている間にも露出はどんどんエスカレートしていく。ついに亀頭と竿の部分がはっきりと見えるようになった。疑惑は確信に変わった。

 

  しかし、残念ながら私はゴリゴリの腐女子である。それも20年近いベテランだ。そんじょそこらの一般女性よりは男性器を見慣れているという自負がある。さしたる感慨もない。むしろ、恐怖や羞恥を感じるよりも、相手が女だからと舐めてかかっているその神経に無性に腹が立った。

 前述の通り車内はガラガラである。私と友人が席を移動すれば済む話だ。しかし、そうしてしまえばこの男に負けたことになる。相手の思うつぼになるのだけは絶対に嫌だ。そう思った。なぜ被害者である私が露出狂に配慮せねばならんのか。お前がちんちん見せつけとるのがあかんのやぞ。

 怒りが頂点に達した私は、車両の後方にいた車掌さん(なぜ車掌さんがいる車両で行為に及んだのか……)に声を掛けることにした。

 

 ドアの向こうにいる年配の車掌さんに、ジェスチャーで話があることを伝える。車掌さんはすぐに出てきてくれた。こっそりと、向かいに座っている男性が股間を露出していることを伝える。車掌さんも驚いたようだが、すぐに男性の元に向かってくれた。おそらく車掌さんが近付いてきた時点でイチモツは即座にしまっていただろうから、犯行の現場を見てはいないだろうけど、車掌さんは私を疑うこともせず毅然と注意してくれた。

 お礼を言って元の席に戻る。男性はすっかりしょぼくれており、チャックも綺麗に閉まっていた。そしてこちらを見ると申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

 そんな生半可な覚悟なら最初からやるんじゃない。

 

 次の駅で男性は降りていった。その際も私に頭を下げていった。だからそんな(略

ちなみに隣にいた友人はまったく気が付いていなかったようで、私の一連の行動に驚いていた。さすがに見て楽しいものではないので、気付いてなくてよかったと安堵した。

 

 今回は自分に直接の被害が及ぶことではなかったからよかったものの、これが痴漢だったら同じように対応できたかは分からない。でも性犯罪を許すことはできない。気の弱い性犯罪者はこういう戦闘民族みたいな腐女子がいることも頭に入れておいた方がいいと思う。

 次はスマホで証拠を押さえてから通報しようかな。